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一般社団法人アーツスプレッド 〜Life with music〜

加藤旭さんを応援してくださる方へ大切なお知らせ

あらゆる可能性を信じて

加藤 希

 長男・旭を応援してくださっている皆様、いつもありがとうございます。
 懸命に病と闘ってきた息子ですが、2016年5月20日、16歳(高2)で旅立ちました。「船旅」という自作ピアノ曲を聴きながら、「じゃあ行くね」と自分で旅立ちを決めたような表情でした。

 2015年5月末のCD「光のこうしん」完成以降、皆様から多くのメッセージをいただき、旭は音楽を通して人とつながれる喜びを実感したようです。

 「『くじらぐも』と『にじ』が好きです」など好きな曲名を教えていただくと、「自分の名前なんて知られなくても、曲を口ずさんでもらえたら一番嬉しい」と言いました。ご自身がご病気だという方や、ご家族がご病気だという方が「励まされた。旭君もがんばって」とのお言葉を寄せてくださると、「こういうことのためにCDを作ったんだ」と喜びました。「今の旭君の曲も聴きたい」と言ってくださる方も多く、力をいただいた彼は、夏ごろから曲作りを再開しました。

 旭にまた曲を作るほどの力が湧いてきたことは、家族にとって大きな驚きでした。彼の脳腫瘍は脳だけでなく脊髄にも広がっており、主治医の先生から2015年4月の時点で、息子の命について「長くて3カ月」と言われていたのです。ところが告げられた期限のころから再び曲を作り始め、むしろ体調を上げていってくれました。

 2015年10月、ピアノ曲「A ray of light ~一筋の希望~」
 同11月、木管三重奏「湖のほとり」
 同12月、ピアノ曲「船旅」
 3曲を完成させ、新たにクラリネット五重奏や弦楽曲にも着手。視力を失い自力では立てない、そんなハンデを全く感じさせないほど、旭には音楽があふれていました。

 しかし2016年に入り、病状は急速に進行していきます。けいれん発作、激しい頭痛、誤嚥…。3月半ばから「いつ呼吸が止まってもおかしくない」ぎりぎりの状態となりました。その頃2枚目のCD制作がスタート、体調の落ち着く瞬間を見計らって少しずつ少しずつ作業を重ねました。

 5月初旬、点滴をつなぎ、鼻から酸素を入れ、会話もままならない旭が、手の動きだけで「ぴ」と訴えました。「ぴ? もしかしてピアノを弾きたいの?」と尋ねると、なんとか頷きました。大急ぎでベッドを起こし、キーボードを運び、ひじの下にクッションを置きました。意識も朦朧としているはずなのに、両手をゆっくりと鍵盤に乗せ、愛おしそうに鍵盤を押しました。もう上半身の自由は奪われ、手にほとんど力は入らない状態です。指先に、体すべての力を気迫で集めているようでありながら、鍵盤に触れる手の動きはいつもの彼らしくエレガントに見えました。極限状態であっても音楽を愛している旭の姿に、家族は圧倒され、言葉を失い、見守りました。

 5月18日は次作CD「光のみずうみ」の入稿日。旭は入稿を見届け、翌々日、自分でそのタイミングを決めたように旅立ちました。穏やかな表情と「船旅」のメロディーが心地よく残りました。

 今頃旭は自由に走り回り、以前のように手書きで音符を記している気がします。そして、旭を知ってくださった皆様、応援してくださった皆様の中で、生き続けてくれるよう感じています。旭の音楽が種となり、どこかで思わぬ芽を出してくれるかな、と想像したりもします。皆様とのご縁から生まれる、あらゆる可能性を信じたいと思っております。

 これまで支えていただき本当にありがとうございました。そして、これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。

2016年5月


心を掬い取り、伝える地点に同じ純度で立っている音楽。
未来への、旭君の伝言だ。 (池辺 晋一郎)


6/5のアーツ室内オーケストラ銀座定期公演Ⅴ A ray of light ~ 一筋の希望 〜『夢に向かって』コンサートでは、「A ray of light」 「船旅」の初演を行います。
当公演は、チケット完売しております。ありがとうございました。尚、当日券はございません。