ザルツブルク=モーツァルト国際室内楽コンクールin Tokyo 2025総評

総評

【 ピアノ部門】

・Mozartの音楽は、不自然さを嫌うという意味のことを語っていた音楽家がいましたが、その意見は多くの方に支持されるでしょう。自然であることは基本であり、大切です。しかし、自然に演奏することは、リズム、フレージングその他、考えれば考えるほど難しくなるものです。和声、形式などのアナリーゼ、オペラや管弦楽その他ピアノ以外の作品の鑑賞する等々、多様なアプローチを通じて自然さに近づいていくしかないと思います。

・聴き手は新鮮さや、時には驚きも感じ取りたい欲求をもっています。従って、演奏には個々の演奏家の個性や「閃き」も不可欠です。「閃き」は一瞬にして消えてしまいますが、その「閃き」をしっかり捉え演奏に生かすこともきっと重要でしょう。

・楽譜に記載されているオリジナルの記号(特に強弱記号)、もしくは編集者等により補足された記号に惑わされないこと。なぜならMozartの場合、あくまでもそれは「目安」に過ぎないからです。

・16分音符などのパッセージにおいて、拍感が失われない様に。余韻を聴くゆとりをもつことも心がけましょう。常にその音楽が求める音色について考えてタッチ(打鍵)をコントロールするようにしましょう。

【室内楽部門】

・多くのグループが、真摯に作品と対峙しており、誠実で情熱的な演奏を聴くことができたことは大きな喜びです。YAMAHA銀座店コンサートサロンはその名称の通り、まさにサロンであり、ある意味で室内楽に最適の空間ともいえます。その空間の大きさ、響きを即座に捉えてバランス・音量をコントロールすることは、とても難しいことですが、大変重要であります。様々な会場での演奏経験を重ねること、第三者の意見を聞くなど、様々なアプローチでこの課題に取り組んでほしいと感じました。

・20分以内という制限された時間の中で、いかに聴き手の心を掴み、離さないことができるか?ということを念頭に、選曲、楽章の選択をすることも重要ではないかとの感想がありました。
作曲家の求める音楽を表現するということは、譜面に記された音程やリズムなどに(それが正確であるといことに)立脚しているので(そこが出発点になるので)、そうした点においては技術的な課題を解決しなければならない(鍛錬しなければならない)ことは、演奏家(再現芸術家)にとっては、重要で継続的な課題であることを忘れてはいけないでしょう。

以上